「…あれ?」
「おや、ではありませんか。」
ボンゴレの屋敷内、出会ったのはだった。窓から差し込む月光に、人工の明かりのないこの廊下も明るくなる。彼
女の髪は見事に月光に照らされて、透き通っていた。
「こんな夜中に…どうしたんです、屋敷内とはいえ危ないですよ」
「大丈夫ですー。ボクは強いのですよー」
「クフフ、そうかもしれませんねぇ。しかし男はそんな君を」
キュッ、と細い手首を掴む。どうしてこんなに細いんだろう、折れてしまいそうだ。
「簡単に上回る。」
「わー、じゃあ骸さんとっても強いですー」
間延びした声でニコニコしたに、笑い返す。彼女がこんなふうになったのはいつだっただろう。もっと冷たくて、どこ
か鋭利で。今の彼女とは正反対とも言える昔の彼女の面影はその蒼き髪にしか残っていない。彼女は殆ど笑ってく れなかった。
「骸さん?手、痛いですー…」
「あ、すみません」
いいんですよー、と笑った彼女はもっと強くならなきゃなぁ、と窓の外を見た。
「綺麗ですねー」
「…え、と?」
「月ですよー、満月じゃないですかぁ」
「本当…ですね。」
確か彼女がこう変わったのも
「骸さんー」
こんな、月の綺麗な日だったろう。
「骸さんも綺麗ですねー」
え、そうですか、と振り返ったとき、彼女はそれはとても今からは想像できなくなった、昔の顔だった。
「どうしたの、骸。」
どうしたの、って
それは僕のセリフですよ
「骸、私貴方を待ってるから」
「…?」
「これからも、ずっと待ってるから。来て、迎えに」
「…まさか、貴女というひとは!」
もう、この世にはいないとそう告げていた。何故、では今まで僕が見ていた君は誰?
あれも君?今目の前に見ているその姿も君?どれが君なのか僕には分からない。
「骸。」
「はい」
「骸、私は私よ。」
「…は…っ、クハハハハ!」
僕の笑いに彼女はビックリした目を向ける。突然、笑ったからだろうか。
「…骸さん?何かボク可笑しな事言いましたー?」
「!」
いつのまにか、昔の彼女はいなくなっていた。
「…いいえ、が僕を綺麗というから、何かと思ったんですよ」
クフフ、君にはまだ今のままでいてもらわなければ。
「あ…っおーい骸!!」
沢田綱吉、僕のボスだ。気に喰わないが、仕方ない。焦った顔でなんだというんだ。
「ちゃんが、今…ッ」
沢田綱吉、なら今部屋に向かったばかりですが何だというんです。口には、出さなかった、否出せなかった。
「ちゃん、任務先で、瀕死の重体になったって……今帰ってきたんだっ!」
まさか。彼女は僕にそれを伝えるために、あんな形で現れたのか。まさか、僕が見ていたのは
「…幻覚」
「骸?ボーっとしてないで早くちゃんのところに行ってあげて欲しいんだ!…骸!?」
あぁ、僕はなんて愚かなんだ。気付かなかったなんて。
her syndrome
10/10/12
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