「剛さんにずっと顔見せてないもんね。
ツナキチ、今日はご挨拶に行くね、ごめん。」
「悪ぃツナ、そーゆーことで俺も行けねーわ。」
「ううん、ちょっと残念だけど、また今度ね!」
つなよしくん顔怖い。影差してるし。隼人くんはものすごい剣幕で武ちゃんを睨み始めたし。そういうつもりじゃなかっ
たんだけど。どうしろって言うの、これは…仕方ない…。
「あの…ツナキチ?」
「え?」
呼んだ途端輝いた顔になるの、やめてください。
「来週…空いてる?そしたら、その、お邪魔したいんだけど」
「…うん、大丈夫だよ!」
隼人くんの剣幕も『チッ、仕方ねーな』くらいに小さくなる。なんでこの人はツナキチにここまで影響されるんだろう…ま
ぁ、いいか(よくない?)。
「んじゃ、先に失礼するわ。またなー」
「じゃあねツナキチ、隼人くん」
校舎出発、下校開始!
並盛商店街をゆっくり歩いていくと、武ちゃんが急に足を止める。どうしたのだろうと顔を見ると、1件の店を見ていた。
「どうしたの?」
「いんや、なんでもねー。悪ぃな」
「別に」
なんで貴金属を取り扱うような店を見たんだろう。
一応昼食時だというのに、武ちゃんは相変わらず正面の店から入ってゆく。お客さんに顔を見せるのも看板息子の仕
事なんだろうか、ちょっと考えた。
「親父、ただいまー」
「おぅ、おかえり。おっ、ちゃんも一緒じゃねぇか」
「こんにちは、お久しぶりです。お邪魔します」
「久しぶりだなぁ、元気そうで何より!ちょっと待っててくれ、なんか出すから」
「お構いなく。」
剛さんは遅めの昼食を取りにきていたらしい数人のお客さんと武くんまた身長伸びたかい、とかちゃん見るの久し
ぶりだねぇ、とかそういう話をしながら挨拶してくださる。
お忙しいのだから昼食くらい作るのにな。折角の好意、頂こう。
「悪いな、来てもらったのに手伝ってもらっちまって。」
「お昼頂いたお礼もありますし、何より手伝うの楽しいですから」
「そう言ってもらえるとありがたいねえ」
「ほんといい娘さんをお持ちねぇ」
「いや娘っつっても俺の娘じゃないから出来が違うんでしょうなぁ」
お客さんとの会話の仕方がなんともいえずに絶妙だな、といつも思う。剛さんってやっぱりすごい人だな。
「助かったぜちゃん、武とゆっくり休んでてくれや」
「あ、はい、お言葉に甘えさせていただきます。ごゆっくり」
「あら、ご丁寧に」
ご婦人は鮮やかに笑った。
武ちゃんの部屋に行くと、武ちゃんは何をするでもなく机に向かっていた。そう、向かっていた、だけ。開いている扉に
ノックの真似をして、部屋にお邪魔する。手にはさっき鞄から抜いたもの。
「武ちゃん、武ちゃん」
「ん?あ、お疲れさん」
「ありがと。あ、はいコレあげる」
「何、クッキー?」
「うん。今日バレンタインだからね」
「そっか、ありがとな!」
武ちゃんがケロリと笑う。やっぱりこの人は、どんなときでも明るいな。
「今食べていい?」「ご自由にどうぞ。味は保証しない」「い゛…まぁ有希料理上手いから期待する」「…何それー」
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