逆を言えば苦手克服なのかな…イーピンちゃんは大人しいし、うん。
「ツナキチのところ、新年の挨拶も兼ねて行かせて頂いて良いかな。
剛さんはお店あるし、お休みの日にでもゆっくりお話させてください、って武ちゃん?」
「あいよ。伝えとくな。」
何その明らかに「チッ」って顔。反対にツナキチがとても晴れやかな笑顔を見せる。その横では隼人くんが「良かった
ッスね、10代目!」…何なんですか一体。
「良かったぁ。遊びたい遊びたい、って特にランボが聞かなくって。」
…言いそうだけど小さいのはそこまで相手、気にしてないよね?まさかツナキチ、子守係が欲しいとかじゃないよ
ね?と、隼人くんに怒られそうな勝手な想像はさておき、ツナキチ達はいそいそと下校支度を始める。確かにいい加 減校舎を出ないと
「君たち、まだ群れてるの?もう下校時間なんてとっくに過ぎてるよ。
早く帰りなよ、それとも…咬み殺されたいのかい?」
「ひひヒバリさんー!!」
思い切るより前にツナキチの悲鳴が始まった。
あぁ、もうトンファー装備だ。
校舎脱出、下校開始!
「あぁー怖かった〜っ…ヒバリさん、ほんと厳しいな…」
「まっ、ヒバリだしな!」
「何その納得の仕方―!?」
突っ込むべきはそこだったのか。ツナキチが悠長に「厳しいな」って言ってる方もどうかと思うんだけどな。まぁ、恭くん
は案外甘いから悠長に言えるけど、本人の前だとさすがにトンファーと1回以上はご対面しないといけなくなるんじゃ ないのかな…多分。
私は結局ツナキチたちと歩いていて、そろそろ一旦分かれ道。どうせお昼ご飯(とはいえもう昼時は過ぎているから
実質的にはおやつみたいなもの?)を食べたらツナキチの家集合とのことだし、本当に一旦の分かれ道。
「じゃっ、また後でなー」
真っ先に抜けたのは商店街に居住の武ちゃん。その次に抜けたのは数分歩いた後。
「、10代目が危ない目に合わないようにしろよ!それでは、10代目、一旦失礼します。」
律儀な挨拶と共に隼人くん。これで、今は私とツナキチの2人きり。だけど特別話したいことも話すこともなかった。た
った1つを除いては。
「…なんか2人とも元気だなぁ」
無言が重圧かのように、ツナキチが自嘲的な笑いを浮かべた。
「私は、ツナキチも充分元気だと思うけど」
「そうかな?でもやっぱり2人の方が元気だよね」
「まぁね」
「少しの否定もしてくれないの!?」
して欲しかったのか。しかし本当の事だつなよしくん(棒読み)。
というより、ツナキチ、今日はちょっといつもより落ち込み気味だと思う。やっぱり、バレンタインという一部男子に不利
なイベントのためだろうか…この言い方は酷いかな?
京子ちゃんには学校でもらえる訳ないものね、前言撤回とでも言うべきタイミングで嗾ける。でもツナキチはそんなに
気にする事ないと思うんだけどなー。あの2人がチョコの類をもらい過ぎなだけだろうし(現に別れる前の2人はそれぞ れ大きな紙袋いっぱいのそれをもっていた!)。
それに、何とも思っていない人からもらっても嬉しくないでしょう?武ちゃんはチョコの消費に困ってた。
「ツナキチ」
「何?」
「こっち向いて」
前を向いていたツナキチは何の用心もなくあっさりと私のほうに首を回した。
タイミングを合わせて、右手を伸ばす。
「へ…お、あ」
ツナキチは途端に呂律が回らなくなる。
「それ、何語?ツナキチ語?」
「も、がっ!」
茶化したように笑って言えば、反論をしたかったのかしようとしたのかツナキチが慌てて空を仰いだ。ツナキチが仰い
だ空からは理由がよくわかる。
口の中に、クッキー。
その場で空を仰いだまま止まって、悠に10秒は置いてやっと前を向いた。両目とも、涙目になっている。
「ちょ、と!ちゃん、突然口の中にもの突っ込まないでよ!」
「大丈夫、手は洗ったし消毒もした」
「そうじゃなくて!」
ツナキチは両手をぶんぶん振って、顔を赤くしはじめた。顔も、少しずつ俯き気味になる。
「ツナキチ?」
「その、心の準備とか、出来なくて…あーもう、ビックリした!」
「…あははっ」
「笑い事じゃないよ…突然で言いにくいよ…」
「…何を?」
ツナキチは俯き気味な顔を上げた。耳まで、真っ赤。
「ありがとうって、言えない」
「お礼くらい、いいのに」
「ありがとうも言えない、けど、その…好きも、言えないから」
09/02/20
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