ピピピピピピ………ゴガッ!
「うるさいな…」
この時計が鳴ったということは、設定を間違えていたりしなければ今、朝7時になったところ。
今日は2月14日。世に言う聖バレンタインを祝うはずのイベント日、バレンタインデー。
ここは日本なので、このバレンタインデーにはお菓子会社より広められた「女性から男性へチョコをプレゼント」という
のが風習。ヨーロッパの人間(というか、ヨーロッパ生まれ?)としては自分から、しかもチョコ、というのは少々不本意
ではあるものの『友チョコ』なる評価すべき点もあるので私は今お菓子会社の策に引っかかっている。
とはいえ渡すときに困るチョコなんて溶けやすいものを持っていきたくはないので、私が作っているのはクッキーだ。
箱も個別用の袋も、既に用意済み。当然だね。
朝からクッキーを作る必要もないけれど、作り置きするのは癪だし当日でいいかというのは前から思っていた事。
チン、とオーブンの音。あとは包装して、運んで、渡すだけ。
さて朝食を用意しなきゃ。


さぁ登校だ!


学校に着いて真っ先に目に映るのは妙に浮いている男子生徒の群れ。かと思えば女子生徒は顔を赤らめたり何なり
やはり浮いているし。
そんな中教室でいつもと変わらない笑顔を浮かべている少女を見つける。
「京子ちゃん、おはよう」
「あ、ちゃん。おはよう!」
「さすがに皆騒がしいね」
「そうだねー。でも、私もちょっとドキドキかも」
「ふふ、それでいいと思うけど。あ、あとでね」
「あ、うん!」
渡す、ということが伝わったらしい。あまり大っぴらに言うと風紀委員(というかその長)が嫌に煩くなってしまうだろう。
多分。特に京子ちゃんが被害に遭うのは嫌だ。
「10代目ならたくさんもらえますって、必ず!」
「いや…そ、そうじゃなくて!もう、獄寺くん!」
「ははっ、それくらい気にすんなって。ツナは心配性だな」
「心配性とかじゃないしー!」
やけに声が耳に響くのは元気にやってきた3人組。ツナキチの席は隣で、登校日は朝から3人とも必然的に顔を合わ
せる。…でも隼人くん、特に席離れてるよね?
そういえば一番顔を合わせることが多い我が親戚・武ちゃんの家には最近遊びに行ってないなぁ等と思う。まぁ、どう
せ学校で顔を合わせてるし良いか。
「お、おはようちゃん」
「よぉ。」
「おはよーさん!」
「おはよう。その様子だと風紀委員に会わなかったみたいだね」
「まーな。ヒバリが走ってるトコとかは見たけど」
見たのか。思い出したかのようにツナキチの顔が青くなる。大方トンファーでも振り回して誰かを咬み殺しに行ってた
のだろう。
「っと、そろそろ授業開始か…じゃ、また後で」
「寝ないように気をつけようぜ、ツナ」
「あはは…」
ツナキチの乾いた笑い声で2人が自分の席に向かう。
チャイムが鳴って皆が席に着けば、担任までもが変な顔をして教室に入ってきた。


授業終わり!


土曜日の4時間という短縮授業も終わり口々に色々と言い合う生徒の隙間を、鞄と一緒に抜けていく。
案の定というか、風紀委員は素通りで何も言われなかった。私隠しの天才じゃないか。いや、ただ表立ってとか目が
つく所で渡す方が悪いんだと思うけど。私じゃないから良いけど(酷い?)。
校門まで出ると、朝の事をちゃんと覚えていてくれたのか京子ちゃんが(例によってというべきか)ハルちゃんと一緒
にいてくれた。
「はひー、ハッピーバレンタインです、ちゃん♪」
「ハルちゃん、こんにちは。ハッピーバレンタイン。
 京子ちゃん、待っててくれてありがとう」
「ううん、どういたしまして。ハルちゃんと色々お話してたの。」
元気に挨拶してくれたハルちゃんに続き、京子ちゃんもニッコリ笑ってくれる。
「ホント?…あ、はい2人とも。クッキーだけど」
「わぁ、ありがとうございますっ!これはハルから…どーぞっ」
「ありがとうちゃん。作り方をビアンキさんに教えてもらったし、上手く出来たと思うんだけど…」
「ありがとう、帰ったら頂くね。あ、じゃあこれで。」
「え?もう行っちゃうんですかぁ?」
ハルちゃんはちょっと落ち込んだのか、眉尻を下げる。話したいのは山々だけど、これから人に渡しに行く事を考える
と、段々日が長くなってきているとはいえあまり時間がないとも言える。
「また今度お話しましょう。今度はお茶でも飲みながらゆっくりね。
 ツナキチ達もいた方が楽しいしね?」
「うん、そうだね。また学校でね」
「気をつけてくださいねー」
「じゃあね。」

短縮なのに部活をやろうとする生徒はさすがにいないからか、校庭は帰路に着く生徒が疎らに居る程度。
それにしてもこれからどうしよう。



とりあえずまだ人の多い校舎に戻ってみるかな?
校舎は人多いし、帰るかな。